グローバルに通用するサービスやハードウェアを生み出そうとするスタートアップ企業を支援するため、KDDIが2011年から主宰するインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。その第9期生によるプレゼンテーションイベント「DEMO DAY」が2月22日に開催され、6社が登壇してプレゼンした。そして、3月22日まで第10期を募集している。
KDDI ∞ Laboの最大の特徴は、このプログラムの主旨に賛同する30社ものパートナー企業から支援を受けられることだ。KDDIはもちろん、Googleや、凸版印刷、日本マイクロソフトといった企業の担当者がメンターとして参加者にノウハウを提供。さらに定期的に開催されるイベントやミーティングを通して、日本テレビや大日本印刷、住友不動産といった企業が強力にバックアップしてくれるのだ。第9期生は彼らからどんなアドバイスやノウハウを受けて、プロダクトを開発していったのだろう。KDDI ∞ Labo第9期、その舞台裏を取材した。
今回、お話を伺ったのは、第9期生のメンターとして参加したユカイ工学の代表・青木俊介氏、プロダクトデザイナー・巽孝介氏、ジェネシスの代表取締役社長 兼 グループCEO・藤岡淳一氏の3名。ユカイ工学は「ロボティクスで世の中をユカイにする」をテーマにネットとリアルを繋ぐプロダクトを開発、ソーシャルロボット「ココナッチ」やスマホアプリとハードウェア・センサーをつなぐ「konashi」などを世に送り出している。ジェネシスは電子機器の製造受託や品質管理受託事業などを行っており、スマートフォンなども取り扱っている。第9期から始動した「ハードウェア開発支援プログラム」をサポートした面々だ。
--第9期生のメンター、おつかれさまでした。まずは今回、皆さんがメンターとして参加することになったきっかけから教えてください。
青木:KDDIさんとはau未来研究所というハッカソンでもつながりがあって、そのご縁で今回メンターを務めさせていただきました。今回のDEMO DAYでオーディエンス賞を獲得した「電玉」チームには、au未来研究所出身の方がいるんですよね。そういう経緯もあり、自分たちはよりプログラムの参加者に近い立場で相談に乗れるかなと思いました。がっつりチームに入り込むというよりは、必要な部分でお手伝いするという感じですね。
藤岡:実は以前からスタートアップ企業の支援はしていました。起業してから2、3年目くらいのときに、日本の製造業がなくなってしまうのではという危機感を覚えて、支援プラットフォームを立ち上げたのです。そちらはいろいろな事情で立ち消えになったのですが、今回KDDIさんからお話をいただいて、思いが一致したのでお手伝いできればなと。
--参加していかがでしたか。
巽:電玉チームは特にau未来研究所出身ということもあり、ものづくりが得意な人が集まっていて、プロトタイプもいち早く完成しました。他のチームも直接うちにアポをとって来てくれたりと、熱意を感じましたね。
藤岡:私は後半から関わらせていただいたのですが、終わってみると、もっと“そもそも論”からお話してあげればよかったかなと思いましたね。KDDIさんのプラットフォームを利用させていただくからには、電子工作を作って満足するんじゃなくて、事業につなげていかないといけません。そのためにはゴールから考えて、今何をやらないといけないのかという話をしてあげれば、迷っている時間をもっと短縮できたんじゃないかと思います。でも中国まで自腹でわざわざ来てくれたチームもいて、それはよく来たなと感心しましたね。
--今回、ハードウェアを発表したチームが2つありました。昔よりは部品のコストが下がるなど環境面では参入しやすくなったと思いますが、それでもまだスタートアップがハードウェアビジネスを展開するのには様々なハードルがあります。どのように取り組んでいくべきなのでしょうか。
藤岡:泥臭くて綺麗にいかないのがハードウェア事業です。たとえば半年かけてゆっくり開発するとか、そんなことはありえません。2、3週間で寝ずに試作を作って量産とか当たり前。KDDI ∞ Laboに参加しなくても自力でローンチするくらいの人じゃないとうまくいきません。プログラム参加者からもらう質問って、綺麗なんですよ。たとえばE-Inkを類似品に変えたらどうなるだろうとか、そういう感じ。すごくジェントルなんです。そこはおいといて、まずどういうものにするのかを先に決めないと。
巽:たしかに僕らが普段やっている事業よりはゆっくりですよね。コンセプトを煮詰めて丁寧に作っていく。鉄を叩いていくような作り方だと思いました。
--スタートアップといえばスピード感があるものだと思っていました。ゆっくり丁寧に作るというと大企業みたいですよね。
藤岡:メンターには大企業が多いですからね。そこは我々が中和しないといけない部分なんでしょうけど。
巽:僕らはひょっとしてそこを期待されていたのかもしれません。
藤岡:今回だとDEMO DAYがゴールになっている感じはありましたよね。その後のことは終わってから考えます、みたいな。それで、部品の調達とか、ハードウェアならではの壁にぶち当たる。そのうちに、そもそも何したいんだっけって思い始めることもあります。そうじゃなくて、金と時間がいくらかかろうが、やる。そういう人にしかお金は集まらないんです。
青木:その通りですね。最初からガンガン作るのかなって思ったんですが、ビジネスやコンセプトを話している時間が長かった気がします。
巽:手を動かしながら考えられるのがハードウェアの特徴だし、そのことをもっと早い段階で伝えていればよかったのかもしれません。
--そもそも「こういうものが作りたい」というアイデアがあればいいのですが、難しいのかもしれませんね。商品アイデアというのはどうやって出てくるのですか。
藤岡:以前の考え方だと、1つのハードウェアで「どうだ、すごいだろう」と見せるのが主流でした。でも今の時代は逆で、ハードウェアにやらせる仕事を減らすという発想がメインになります。スマホやクラウドがあるし、BluetoothやWi-Fiも使えるんだから、外に出せるものは出した方がいい。どうしてもハードウェアでしかできないことをハードウェアでやるべきなんです。それはずっとスタンドアローンのハードウェアを作ってきた人にはなかなか思いつかない。アプリやソフトウェア側の人たちがハードウェアを考えた方がおもしろいものができます。
青木:日本のハードウェアメーカーさんはハードウェアとサービスを組み合わせるのが苦手なことが多いですよね。そもそも社内でTwitterができないとか、YouTubeが見られないとかやっているところも多くて、そんなのでサービスと連動するプロダクトは作れないでしょうね。そこにスタートアップの活躍する余地があるんだと思います。コンセプトの作り方ですが、今の時代、誰もがほしいものってあまりないんですよ。スマホとPCがあればだいたいのことはできますから。でも、特定のコミュニティに着目していくと、こういうのあると便利だねってことはたくさんある。GoProなんかがいい例だと思います。性能だけなら他にもいろいろあるけど、GoProはかっこいいイメージがあってヒットした。そういうものづくりが必要なんじゃないかと思います。コミュニティに紐付いていない製品は支持されにくいです。
巽:自分たちのほしいものを作ってコミュニティに受け入れてもらう。そういう自分のエモーションに直結した仕事ができるのはスタートアップのメリットですよね。
--ハードウェアの魅力とは?
青木:もともと人間って手に触る物が好きだと思うんです。画面の中で音や光だけが占める割合が増えているけど、脳みそだけで生きているわけじゃないし、そこにハードが必要なんです。
巽:ものに触るって原始的な魅力がありますよね。
藤岡:ハードの仕事を20年やっていますが、やっぱりやめられないですね。製品がコンベアを流れていくところを見ると、今でも涙が流れるくらい嬉しいんですよ。何度もあきらめかけた製品ができあがった瞬間って、他の仕事にはない喜びがあるんです。
--最後にこれから起業しようとしている人へメッセージをお願いします。
青木:「世界を変える」という言葉を使う人が多いのですが、それよりも「周りの人を幸せにする」の方がわかりやすいかな。そこから伸びていくと世界も変わるという。マウンテンバイクもそうでした。カリフォルニアでロードレースをやっていた人が山を走るために自分で作って乗っていたら皆が寄ってきて製品化して、20年後には世界中の人が乗るようになった。これも1つのスタートアップですよね。
巽:FacebookもGoogleもAppleも、最初は自分たちがほしいものを作っていたんだと思います。
藤岡:ハードウェアビジネスは基本的には大変なことしかありません。それを乗り越えるには、どこかで自分の夢に酔っていないといけない部分があります。辛い時は特に。
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